Ingegerd Olofsdotter(インゲガード・オロフスドッター)

インゲガード・オロフスドッター

1001年〜1050年2月10日。

スウェーデン語での発音はIngegerd Olofsdotter(インゲヤード・オーロフスドッテル、またはインニェイェルド・オーロフスドッテル)。Irina(イリーナ)、Irene(イレーネ)またはAnna(アンナ)という名前でも知られています。

スウェーデンの王女であり、キエフの大公女。賢公として知られるキエフ・ルーシの大公、ヤロスラフ1世の妻です。

東方正教会では聖人として崇められています。

父はスウェーデン王、Olof Skötkonung(オーロフ・シェートコヌング/英語でオーロフ・スコッコヌング/スウェーデン語でオーロフ・フェートコーヌング)。

母は西スラブ人のオボトリート族出身の王妃、Estrid(エストリッド/エストリッド/エストリ)。

父のオーロフ・スコッコヌング

父方の祖父はスウェーデン王エリク6世こと、Erik Segersäll(エリック・セーゲーソル/エリク・シーゲーショル)。ちなみにSegersällとは「勝利王」という意味です。

父方の祖母は西ゴート族の有力者の娘、またはスカンジナビアの女王、Sigrid Storråda(シグリッド・ストラーダ/シグリッド・ストローダ)。彼女は歴史的に論争のある人物で、彼女の人物像に関しては不明な点が多いです。資料によっては、Gunhild(グンヒルド/グンヒルド)という名であったり、ポーランド公女のŚwiętosława(スウィトスワワ/スウィエットスワヴァ/ポーランド語でシュヴィエントスワヴァ)と同一人物であった可能性が高いようです。

父方の祖父のエリック・セーゲーソル

父方の祖母と言われるシグリッド・ストラーダ(右)

母方の祖父は、西スラブ人のオボトリート族の首長。名前は伝わっていません。

異母兄弟に、後のスウェーデン王、Emund(エムンド/エームンド)。

ノルウェー王オーラブ2世の王妃、Astrid Olofsdotter(アストリッド・オロフスドッター/アストリッド・オーロフスドッテル)。

異母姉のアストリッド・オロフスドッター

ノルウェーの支配者、スヴェイン・ハーコナルソンの妻、Holmfrid(ホームフリッド／ホルムフリッド)。彼女についての詳細は伝わっておらず、インゲガードの父の姉妹である可能性も高いです。

同母弟に、後のスウェーデン王、Anund Jakob(エイヌンド・ヤーコブ/アーヌンド・ヤーコブ)がいます。

弟のエイヌンド・ヤーコブ(当時のコインに彫られたもの)

インゲガードは、聖ジークフリッドの伝統に従って、父と家族全員と共に洗礼を受けています。父のオーロフは、スウェーデン初のキリスト教徒の国王と見なされています。

1015年、彼女が14歳の時に、ノルウェー王オーラフ2世が即位し、王室婚姻同盟を提案しました。

1016年、15歳の時に、ノルウェーとスウェーデン両国の貴族が話し合い、当時21歳のオーラフ2世とインゲガードとの結婚が決まりました。インゲガードの父、スウェーデン王オーロフは、最初はこの決定に賛成していましたが、その後反論し、インゲガードではなく、彼女の異母姉のアストリッドをオーラフ2世と結婚させることを決めました。

その後、父のオーロフは、当時スウェーデンとの貿易関係が盛んだったキエフ大公国との関係ををより強化するため、インゲガードとノブゴロドの賢公、Yaroslav Vladimirovich(ヤロスラフ1世/英語ではヤロスラフ・ヴラディミロヴィッチ/ロシア語表記はЯрослав Владимирович、ヤロスラフ・ヴラディミロヴィチ)との結婚を手配し、1019年、インゲガードが18歳の時に、2人は結婚をします。

夫のヤロスラフ1世

キエフに到着すると、インゲガードは名前をギリシャ風のイレーネ、またはロシア語／ウクライナ語のイリーナに変えました。

いくつかの伝承によると、彼女は結婚の贈り物として、ロシア北西部の町ラドガと、その周辺の土地を受け取ったとされていて、その土地は後にイングリアという名前で知られるようになります。おそらくインゲガードの名前が訛ったものが、土地の名前として付けられたと考えられています。イングリアは現在のサンクトペテルブルクを中心とした地域で、インゲガードは父親の従兄弟のラングヴァルド・ウルフソンに、イングリアの統治をしてもらうよう手配しました。

1028年頃、27歳頃に、イングランド王エドマンド2世の息子達、エドワード・アシリングとエドマンド・アシリングを保護します。彼らは亡命生活を余儀なくされていました。また、時期は不明ですが、ノルウェーのマグヌス王子が亡命してきた際も、彼を保護しています。

1037年、36歳の時までに、彼女は夫と共に、キエフの聖ソフィア大聖堂の建設に着手しています。

1045年〜1050年、44歳〜49歳までの間に、ノブゴロドの聖ソフィア大聖堂の建設にも着手しています。

1050年、49歳の時に、彼女は亡くなります。彼女は死の数年前に、修道女として叙階されています。様々な情報源によると、彼女は死後、キエフの聖ソフィア大聖堂に夫の遺体と共に石棺に安置されています。

インゲガードは、キエフとノブゴロドの両地において、聖アンナの名で聖人として宣言されました。彼女が両地で大聖堂の建設を始めたこと、そしてその他の多くの善行をしたことが、聖人として列聖された理由とされています。

また教会は、彼女の聖人としての功績に関して、イングランド王エドマンド2世の息子達、エドワードとエドマンド、そしてノルウェーのマグヌス王子を保護したことを挙げています。

彼女のための讃美歌も作られています。

彼女は自身の3人の娘が他国に嫁いだことから、11世紀のヨーロッパにおいて注目すべき女性の1人となりました。

1939年、ソ連の科学者が彼女の石棺を開け、中を調べました。骨相学者によると、インゲガードの遺体の保存状態は良く、彼女の頭蓋骨は大きく重く、楕円形をしていて、いわゆる「北欧型」と呼べるものでした。額はあまり高くなく平均的で、鼻は鼻根は狭く、非常に突き出ていました。顎は平均的な大きさでしたが、著しく突出していて、歯の保存状態はかなり良かったそうです。研究チームによれば、彼女の身長は約162cmで、夫のヤロスラフ1世は彼女よりも10cmほど高かったそうです。

インゲガードとヤロスラフ1世の間には、以下の子供達が生まれました。

Vladimir Yaroslavich(ウラジーミル・ヤロスラヴィチ/英語ではヴラディミール・ヤロスラヴィッチ/ロシア語表記はВладимир Ярославич、ヴラディミル・ヤロスラヴィチ)。ノブゴロド公。聖ソフィア大聖堂の建設し、完成し祓い清められてから20日後に、32歳で逝去しました。後に福者として列聖されています。

長男のウラジーミル・ヤロスラヴィチ

Anastasia Yaroslavovna(アナスタシア・ヤロスラヴナ/アナステイシア・ヤロスラフナ/ウクライナ語表記はАнастасія Ярославна、アナスタシーヤ・ヤロスラフナ)。ハンガリー王アンドラーシュ1世と結婚し、ハンガリー王妃となります。

長女のアナスタシア・ヤロスラヴナ(黒衣の女性)

Iziaslav Yaroslavich(イジャスラフ1世/イザイアスラフ・ヤロスラヴィッチ/ウクライナ語表記はІзяслав Ярославич、イズヤスラフ・ヤロスラヴィチ)。キエフ大公。父であるヤロスラフ1世が薨去した後、キエフ大公を継ぐはずだった長兄のヴラディミールがすでに他界していたため、彼がイジャスラフ1世としてキエフ大公を継承しました。継承するにあたり、彼は弟達と遺領を分割しました。

次男のイジャスラフ1世

Elisaveta Yaroslavna(エリザヴェータ・ヤロスラヴナ/エリサヴェータ・ヤロスラフナ/ウクライナ語表記はЄлисавета Ярославна、イェリサヴェタ・ヤロスラフナ)。ノルウェー王ハーラル3世と結婚し、ノルウェー王妃となります。

次女のエリザヴェータ・ヤロスラヴナ

Sviatoslav Yaroslavich(スヴャトスラウ2世/スヴィアトスラフ・ヤロスラヴィッチ/ロシア語表記はСвятослав Ярославич、スヴャトスラフ・ヤロスラヴィチ)。兄のイジャスラフ1世がキエフ大公を継承し、彼はいくつかの領地をスヴャトスラウ2世として領有することになります。やがて弟と手を組み、イジャスラフ1世から大公位を奪うこととなります。

三男のスヴャトスラウ2世

Anna Yaroslavna(アンナ・ヤロスラヴナ/アンナ・ヤロスラフナ/ウクライナ語表記はАнна Ярославна、アンナ・ヤロスラフナ)。フランス王アンリ1世の2番目の王妃となります。結婚してから9年後、夫のアンリ1世が逝去したため、まだ7歳だった長男フィリップ(後のフィリップ1世)を補佐し、彼女はフランス初の王妃摂政を務めました。

三女のアンナ・ヤロスラヴナ

Vsevolod I Yaroslavich(フセヴォロド1世/ヴセヴォロド・ヤロスラヴィッチ/ロシア語表記はВсеволод Ярославич、フセヴォロド・ヤロスラヴィチ)。キエフ大公。兄のイジャスラフ1世がキエフ大公を継承し、兄のスヴャトスラウ2世と同様、いくつかの領地を領有することになります。その後イジャスラフ1世から大公位を奪ったスヴャトスラウ2世が急死し、一時的に彼がフセヴォロド1世として大公位に就きましたが、イジャスラフ1世と和解し、彼に大公位を譲りました。フセヴォロド1世は自身の領地に戻ります。その後は、自身の領地の一つであったチェルニーゴフをめぐり、スヴャトスラウ2世の息子とその仲間のボリスを相手に、イジャスラフ1世と共に戦います。決戦を前にして、ボリスとイジャスラフ1世が死去したため、フセヴォロド1世が再びキエフ大公位に就きました。

四男のフセヴォロド1世

Vyacheslav Yaroslavich(ヴャチェスラフ・ヤロスラヴィチ/ヴヤチェスラフ・ヤロスラヴィッチ/ロシア語表記はВячеслав Ярославич、ヴャチェスラフ・ヤロスラヴィチ)。スモレンスク公。父の死後、スモレンスク公国を得てスモレンスク公となりましたが、その3年後に逝去しました。スモレンスク公位は、弟のイーゴルが継ぎました。

五男のヴャチェスラフ・ヤロスラヴィチのシール

Igor Yaroslavich(イーゴリ・ヤロスラヴィチ/イーゴル・ヤロスラヴィッチ/ロシア語表記はИгорь Ярославич、イーゴリ・ヤロスラヴィチ)。ヴォルィーニ公、スモレンスク公。兄弟のヴヤチェスラフの兄弟順は定かではありません。彼は父の死後、ヴォルィーニ公国を得て、ヴォルィーニ公となりましたが、その3年後に兄弟のスモレンスク公ヴヤチェスラフが亡くなったため、スモレンスク公を継ぎました。しかしイーゴル自身も24歳の若さで逝去します。彼の死後、ヴォルィーニ公は甥のロスチラフ・ウラジミロヴィチ(兄ヴラディミールの息子)が、スモレンスク公は甥のヴラディミール2世モノマフ(兄フセヴォロド1世の息子)がそれぞれ継承します。

六男のイーゴリ・ヤロスラヴィチ

また、一時期インゲガードが保護をしていたエドワード・アシリングの妻となったAgatha(アガサ)も、インゲガードとヤロスラフ1世との間の娘という説がありますが、定かではありません。